元祖タワマン文学「息が詰まるようなこの場所で / @nekogal21 」 – 不完全で満たされない人達の群像劇

元祖タワマン文学、息が詰まるようなこの場所で 窓際三等兵 @nekogal21 (外山薫)を読了して数日経って、頭の中に感想が固まってきたので記事にまとめました。

まず全体を通しての感想ですが、元祖タワマン文学の方だけあって文章が上手いです。一晩で読破するつもりはなかったのですが、気がついたら読み切っていました。

最初はスマートフォンの小さい画面で読んでいたのですが、早く続きを読みたいと思って途中から仕事用の32インチの大型ディスプレイで読むようにしました。

32インチディスプレイで読書

ネット上の最新のネタにも笑わせてもらいました。中でも「退職エントリー」がひどくてかなり笑わせてもらいました。

目次

直木賞受賞作の「女たちのジハード/篠田節子(著)」との類似

語り手の登場人物達が章毎に入れ替わっていくので、読書中の印象は直木賞受賞作の「女たちのジハード/篠田節子(著)」を彷彿としました。

現状に不満を抱える主人公たちがもがきながら、時に無様に変わっていこうとする生き様が似ているなと思いました。

いなほ銀行(≒みずほ銀行)に務める平田夫妻の苦悩

登場人物の中ではいなほ銀行(≒みずほ銀行)・一般職勤務、一人息子の中学受験に悩む平田さやか。

さやかの苦悩は販促マンガになっていました。

銀行・総合職(文系・MARCH卒)、扱いにくい新卒社員の教育担当になって、かつ単身赴任で全国に飛ばされ続けていた平田健太の二人が私には良かったです。

特に健太は花形の海外事業部ではなく国内市場向けの営業担当。

金融の中心であるニューヨークにもロンドンにも縁がない、縮小し続ける国内市場という戦場で使い捨てられる兵士たち

第2章 夏 平田健太の焦燥

海外と事業をする日系企業に勤めている人なら、いま国内市場に配属されることの辛さは容易に想像できるはず。

そして、若手社員の教育を丸投げされる場面も日系企業に勤めている人ならどこかで見たことがあるはず。

ここまで丸投げされるとは思っていなかった。もともとちゃんとした育成マニュアルがあるわけでもなく、OJTの名の下、すべて現場に丸投げだ。

第2章 夏 平田健太の焦燥

そして後半で本音を表に出さない健太がキレる場面が自分にとっては一番本書で響いた場面でした。

後半は開業医の高杉夫妻とその息子の隆君

後半は数代続く開業医の夫妻、高杉綾子と高杉徹に焦点が当たるが、息子の隆君も含めて平田夫妻ほどの苦悩は感じられず。

周りから見ると満たされた生活を送っていると思われる人達にも悩みはある、ってのを描きたかったのだとは思うけれど。

隆君の悩みは理解は出来るが、やはりそこは開業医としての圧倒的な資産の力で強引になんとか叶えてしまったので、現実離れしているように思えた。

ちょうど女達のジハードの沙織みたいな印象を受けました。最終的に同じように破天荒な進路を選んだ点でも沙織と隆君は類似していました。

独立自尊の精神で泥臭くも自分の未来を切り開いていった「康子@女達のジハード」のようなキャラを登場させてほしかった、と個人的に読んでいて思いました。

自分はすでに成功したスタンフ夫ではなく、未来のスタッフ夫になりそうな人物を描いてほしかったのだなと、読後数日経って思いました。※高杉豊はありあまる実家の資産を使っての起業なので該当しない。

一気に読ませる力があった

息が詰まるようなこの場所で、後半部分についてはやや辛口なレビューをしたけれど、書籍は一気に読み切ってしまったので、全体として満足しています。現代の世評をうまく編集して読み応えのある作品に仕上げているなと。

終盤の隆君の卒業スピーチは上手いです。出来杉君のような完璧超人ではなく、不完全な人間だからこそ話せる内容でした。

隆君関連で最後に1つ紹介したい、印象深かったエピソードはキャッチボールがかなり残念だったところ。

キャッチボールの形になっていたのは琉晴だけで、充も隆もまともにボールを取れず、投げ方も腕が縮こまった、健太の世代であれば「女子投げ」と呼ばれて馬鹿にされるようなものだった。

(小略) 野球離れが進んでいるとはいえ、我が子の運動神経の悪さにギョッとする。

第2章 夏 平田健太の焦燥

中学受験で子供たちが歪に成長している様も本書の中では描かれていました。

次回作では中学受験で後半追い詰められていた平田充君(中学受験後に燃え尽きた)、そして日本の典型的な大企業で働く平田夫妻のように泥臭く現実と戦ってもがいている人達をもっともっと登場させてくれると嬉しいなと一読者としては思っています。

余談・英語教育者目線の付け足し。

作品の中では中学受験には英語科目は含まれていなかったけれど、英語科目も含まれるようになったら語学留学(フィリピン留学含む)を出来る重課金家庭がさらに差をつけて来るんだろうな、って思った。

隆君は小学生の段階ですでに英検2級を取得していて、それだけでも相当すごいですが、トップクラスになると小学生の内に英検準1級まで取得しそう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Backwise共同代表(塾長)・学習カリキュラム担当。
「20歳を過ぎてから英語を学ぼうと決めた人たちへ」の著者。自らも英文法・発音のレッスンを日々提供しています。
フィリピン留学の世界に2012年から関わっています。

目次