レアジョブが学研の完全子会社へ。オンライン英会話業界はなぜ苦しくなったのか

画像: レアジョブの料金プラン。25分の1レッスンが257円で受講出来るけれど……
レアジョブが学研の完全子会社へ。オンライン英会話業界はなぜ苦しくなったのか
オンライン英会話大手のレアジョブ(RareJob)が、Gakken Holdings の完全子会社になることが発表されました。
このニュースは単なるM&Aではありません。
むしろ、
「2010年代に急成長したオンライン英会話モデルが、転換点を迎えた」
ことを象徴する出来事だと言えるでしょう。
かつてオンライン英会話は、「低価格で毎日英語を話せる」という革新的なサービスでした。
しかし2020年代後半に入り、その前提が大きく崩れ始めています。
なぜここまで環境が変わったのか。
背景には、大きく2つの変化があります。
- 円安によるフィリピン人講師コストの上昇
- AI英会話サービスの急速な進化
今回はこの2つを軸に、レアジョブ子会社化の背景を整理します。
円安で「フィリピン人講師モデル」が苦しくなった
オンライン英会話業界は、もともと非常にシンプルな構造で成長してきました。
- 日本円で月額課金
- 人件費が日本人の1/10程度だったフィリピン人講師を大量採用
- 人件費差を活用して低価格化
2010年代前半は、ドル円が80〜100円台だった時代です。
さらに当時のフィリピンは現在ほど物価も高くなく、日本向けオンライン英会話の給与水準には競争力がありました。
そのため、
「毎日25分レッスンで月額5,000〜6,000円」
という価格設定が成立していました。
しかし現在は状況が大きく異なります。
円安とフィリピン国内賃金上昇のダブルパンチ
2022年以降の急激な円安によって、日本企業側の負担は急増しました。
さらに、
- フィリピン国内のインフレ
- 英語を使う仕事との人材獲得競争、海外企業のリモート業務拡大
なども重なり、優秀な講師を低コストで確保し続けることが難しくなっています。
特に英語力の高い人材ほど、
- コールセンター
- 海外企業のサポート業務
- IT系リモート職
などへ流れやすくなっています。
つまり以前のように、
「日本向けオンライン英会話が魅力的な就職先」
という時代ではなくなったわけです。
AI英会話の登場で「毎日25分」の価値が変わった
オンライン英会話業界にとって、さらに大きかったのがAIです。
ここ数年で、
- 音声認識
- AIチャット
- 発音分析
- 会話シミュレーション
の精度が急速に向上しました。
以前は、
「外国人と実際に話せる」
こと自体に大きな価値がありました。
しかし現在は、
AIが24時間いつでも会話相手になれる
時代になっています。
しかも、多くのAI英会話サービスは低価格です。
「お金をあまり使いたくないライト層」とAIは相性が良い
オンライン英会話を利用していた人の中には、
- 英語学習へのモチベーションはそこまで高くない
- とりあえず安く英語に触れたい
- 毎月大きな固定費は払いたくない
- 空いた時間に少しだけ使いたい
というライト層も多く含まれていました。
そして、このような「低コスト・低負担」で英語に触れたい層と、AI英会話は非常に相性が良い。
AIなら、
- 月額が安い
- 予約不要
- 24時間使える
- 人目を気にしなくて良い
- 気まずさがない
- レッスン消化プレッシャーもない
からです。
従来のオンライン英会話では、
「せっかく契約したから毎日やらなきゃ」
という負担感を感じる人も少なくありませんでした。
これは業界の裏話ですが、実際にちゃんとオンライン英会話レッスンを消化する人は1/10程度しかいません。
そのため、レアジョブを含めた大手英会話サービスはレッスン料を支払うけれど、レッスンを満足に受講しないゴースト会員で利益を上げています。閑話休題。
一方AIは、「空いた時に少し話す」くらいの使い方でも成立します。
そのため現在は、
「毎月数千円払って人間講師を予約するほどではない」
という層が、AI側へ流れ始めています。
こうした変化によって、オンライン英会話業界そのものの立ち位置も変わり始めています。
「英語話者とオンラインでつなぐだけ」では、もう差別化にならない
「英語を話せるフィリピン人講師をオンラインでつなぐだけ」のモデルそのものは、すでに新規性を失いつつあります。
以前は、
「海外の英語話者と、低価格でマンツーマン会話ができる」
こと自体に大きな価値がありました。
しかし現在では、その仕組み自体が一般化しました。
さらにAI英会話も急速に進化しており、
- 英会話の練習
- 発音練習
- 瞬間英作文・カランメソッド的な反復練習
といった領域は、すでにかなりAIで代替可能になっています。
つまり、
「オンライン英会話という仕組みそのもの」
には、以前ほど強い価値がなくなっているわけです。
低価格モデルが抱える構造的な問題
さらに厳しいのは、25分レッスン型オンライン英会話の収益構造です。
低価格競争が激化した結果、フィリピン人講師の報酬は非常に低水準になりやすい。
たとえば、
「コーヒー1杯程度の料金」※レアジョブの場合だと、25分で257円のレッスン料
で25分のマンツーマンレッスンが提供されるケースもあります。

利用者側から見れば非常に魅力的な価格です。
しかし、その価格設定の中で、フィリピン人講師にはどれだけの報酬が支払われるのか。想像してみて下さい。
当然ながら、そのしわ寄せは現場に出やすくなります。
その結果、
- 講師研修が十分に行われない
- レッスン準備時間が確保されない
- 離職率が高くなる
といったレッスンの品質を下げる問題が起こりやすくなります。
準備時間が与えられいないフィリピン人講師達の授業の進め方
実際のオンライン英会話のレッスン現場では、
レッスン冒頭で生徒に英文を音読させ、その間に講師が教材内容を確認する
といったケースも珍しくありません。
これは、十分な準備時間が与えられていない講師たちが、限られた環境の中で対応せざるを得ない側面もあります。
もちろん、真面目で優秀な講師も数多く存在します。
ただ、業界全体として見ると、
「大量の講師を低価格で回転させるモデル」
には、どうしても品質面の限界が出やすい構造があります。
受講者には「授業料・レッスン料が安いということは、現場のレッスンを担当する教師・講師の給料も安くなる」という現実があることも忘れないでほしいです。
フィリピン人講師側からも「低価格モデル」の限界が見え始めている
参考画像: 求人サイトに載っているフィリピン人によるレアジョブの評価。仕事内容(Work/Life Balance)は満足度が高いが、給与(Compensation/Benefits)と仕事(Jobu Security/Advancement)の安定性は最低の評価。

「仕事内容に対して報酬が低すぎる」 “salary is too low”
こうしたオンライン英会話サービスの構造問題は、日本の利用者側だけでなく、フィリピン人講師側の口コミからも見えてきます。
実際、Indeed の RareJob Philippines 講師レビュー や、Reddit の ESL講師コミュニティ では、
- 報酬水準の低さ
- 予約数の不安定化
- 評価制度への不満
- 講師供給過多
などを指摘する声が少なくありません。
特にIndeedのレビューでは、
“salary is too low” 「仕事内容に対して報酬が低すぎる」
というコメントが繰り返し見られます。
もちろん、在宅勤務できることや、副業として柔軟に働ける点を評価する声もあります。
一方で、
「長期的なキャリアとしては厳しい」
という意見も目立ちます。
「安さ」を追求し続けた結果、講師側の待遇や教育投資が難しくなっていく
特に、オンライン英会話業界では低価格競争が長年続いてきたため、
「価格は安いほど良い」
という圧力が非常に強かった。
しかし当然ながら、
- レッスン単価
- 講師報酬
- 研修コスト
- サポート体制
はすべてつながっています。
そのため、
「安さ」を追求し続けた結果、講師側の待遇や教育投資が難しくなっていく
という構造的問題も起きやすくなります。
実際、Redditなどの現場レベルの投稿を見ると、
- 以前より稼ぎにくくなった
- 講師数が増えすぎて予約が安定しない
といった声も増えています。
これは単なる一企業の問題というより、
「低価格オンライン英会話モデルそのもの」
が成熟期に入り、限界が見え始めていることの表れなのかもしれません。
オンライン英会話は本来「初級者向け」ではない
レアジョブ以外のオンライン英会話サービス(DMM英会話、ネイティブキャンプ)も初級者向けではない。
「円安・人件費高騰」「AIの台頭」という外部要因に加えて、そもそもレアジョブが提供しているオンライン英会話というサービスは初級者向けのサービスではないことが苦戦に繋がっていたとも言えます。
以下の画像はDMM英会話(レアジョブの同業他社)のものですが、英語でしかやり取りできないので、英会話レッスンは初級者には実はかなりストレスが大きいです。
初級者の場合、はじめてオンライン英会話のレッスンの予約を入れた前日は眠れなかったという人もいるくらいです。
参考画像: オンライン英会話(DMM英会話)は初級者にとっては地獄
最近DMM英会話始めたんだけどケチって安いプランに入ったせいで先生が英語しか話せないうえに、おれは英語一切話せないから会話が成立しなさすぎて開始6分で地獄みたいな空間になった

レアジョブの競合企業、ネイティブキャンプの事例も紹介。
初級者なので、レッスン難易度が高すぎて何も理解できないし、何も残らない。ストレスが大きすぎて苦痛という感想が書かれていました。
参考画像: オンライン英会話(ネイティブキャンプ) 無理過ぎる
英語無理すぎる
native campも課金してやってみてるけど終わった瞬間に全て忘れるし、そもそもレッスン難易度が高すぎて何もわからないし、講師の人もたまに怖いし、読み物もそもそも読めないし、単語覚えるの苦痛だし、なんかいい解決策ないかな

初級者には英語に触れる習慣が出来るというメリットがあるが……
別にレアジョブだけでなく、競合企業であるDMM英会話もネイティブキャンプ(Native Camp)も初級者向けではないことが分かります。
もちろん、オンライン英会話のレッスンを受講することで、英語に触れる習慣を作るという意味では一定の効果があります。
ただ、
- 中学英文法の理解が曖昧
- 高校英文法で学ぶ基本文型が定着していない
- 発音について全く学んだことがない
という段階の学習者が、25分の英会話レッスンを長期間受講しても、劇的に英語力が伸びるケースはそこまで多くありません。
半年オンライン英会話を受講しても、相槌がうまくなるだけ
実際には、
- 相槌がうまくなる
- 英会話の空気に慣れる
- 英語への抵抗感が減る
といった変化で止まるケースも少なくありません。
そのため、
「半年オンライン英会話を続けたのに、新しい英単語・英語表現はほとんど全く定着せず、TOEIC LRの点数も変化無し」
というケースも珍しくありません。
つまりオンライン英会話は、本来、
「基礎がある程度できた人※が、それまでに学んできた知識を実践する機会」 ※TOEIC600点、英検2級以上が望ましい
としては非常に有効です。オンライン英会話は初級者向けの教育サービスではないのです。
参考: 実際にレアジョブを受講した初級者の方の感想
(受講された方の体験談より)
英語は全くの超初心者な私がレアジョブ英会話の無料体験レッスンを利用してみました。
私の英会話レベルは中高生の授業でやってたくらいで、それ以降は特に何もしておらず英語から完全に遠ざかっていました。おそらく現役の中高生より酷い英語レベルで完全に超初心者状態です。
正直終わってみて振り返ると「撃沈…初心者の私には難しい…」という感想でした。
まず年齢性別など基本情報を登録し、スカイプの希望日時を選択。そして時間になると講師の方からコンタクトがありました。
レッスン内容ですが、英語超初心者の私のレベルでは単語をゆっくり言われても、難しいどころかその単語の意味すらわからず何を言われているのか全く理解できません。
講師の方が自己紹介をしてくださいましたが、ほとんど何を言っているかわからないまま、事前に見ることのできる無料体験レッスン教材の内容をほぼそのまま喋りました。名前、年齢、趣味、仕事を聞かれていたようでした。たぶん。
(中略)
全く英会話ができない超初心者レベルの私がレアジョブ英会話をするには難しいと感じ、オンライン英会話は敷居が高く感じました。せめて中学生レベルの英語の文法、単語くらいは頭に入ってないと厳しい気がします。
レアジョブを使って英語力を伸ばせた初級者の成功事例がない
ここまでオンライン英会話は初級者向けのサービスではないと述べてきましたが、それを裏付けるように、以下の語学学校バックワイズの学習体験談のように、「一定期間オンライン英会話サービスを受講して、これだけ英語力を伸ばせた!」というような目に見えて分かる初級者の成功事例をレアジョブは1例も生み出せていなかったです。
オンライン英会話というサービスをレアジョブは10年以上提供してきたにも関わらずです。
こういった初級者の成功例の欠如も、レアジョブというオンライン英会話サービスから学研の子会社になったことを象徴しているように思えました。


今後は「学習管理モデル」が重要になる
今後さらに厳しくなるのは、
「ただ英会話するだけ」
のサービスです。
AIが進化した現在、
- フリートーク
- ロールプレイ
- 瞬間英作文
- 発音練習
のような領域は、すでにAIでもかなり対応できるようになっています。
しかもAIには、
- 24時間利用可能
- 予約不要
- 低価格
- 何度失敗しても気まずくない
という強みまである。
そのため今後は、
「英会話を提供する」
だけではなく、
- 学習モデルを設計する
- 学習状況を可視化する
- 継続をフォローする
- 学習習慣を作る
といった部分の重要性がさらに高まっていくと考えられます。
たとえば 語学学校バックワイズやオンラインレッスンのハル英語4技能アカデミー(ハルヨン)のように、
- 個々人のレベルに応じた学習カリキュラムの作成
- 学習進捗状況の確認と管理
- 学習習慣化のサポート
まで含めて支援するモデルは、今後さらに重要になっていく可能性があります。
逆に言えば、
「人件費が安いフィリピン人講師をオンラインでつなぐだけ」
のサービスは、AIと比較された時に、
「それならAIで十分では?」
となりやすい時代に入ってきているのかもしれません。
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